FC2ブログ

【短編】 火星小説

man-2589896_1280[640]
 女は僕が帰ってくると、ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも地球を破壊しますか? と質問する。それで僕がご飯にしますと言うと、女は不満そうな顔で、あなたが全部悪いんですからねと呟きながら地球を破壊した。僕と女が火星へ行くことになった経緯はそんなところなのだが、問題なのは、これから僕と女は火星でどう生きていけばいいのかということだった。そこで火星の人に相談したところ、地球出身なら小説で食べていけばいいとアドバイスをしてくれた。

 火星では誰でも小説を書いており、地球とは逆に、大勢の人が書いた小説をごく少数の人が読むという、圧倒的な読者不足の状況だった。とにかく火星の人にとっての小説とは、読むものではなく書くものであり、他人の書いた小説には全く興味が無いのだ。そして火星の場合は、小説を書いた人ではなく読んだ人に報酬が支払われる仕組みになっていたため、小説を読むだけで生活費を稼ぐことが可能だった。長編なら月に五編、短編なら三十編も読めば一ヵ月分の生活費が得られるのだ。

 小説を読む仕事をしていて気になったのは、その内容が、小説そのものについて書かれたものばかりだったこと。一番多いのは、小説を書いても誰も読んでくれないという火星小説の状況をひたすら嘆くものであり、読んでいると気が滅入ってくるし、そりゃ誰も読まないよなと思わせる内容だった。しかし中には、火星の現状を打破するために地球から読者を大量に移住させるといった比較的ポジティブなものもあったが、結局、火星の人自身が変わるという発想にはならないようだった。
 僕は三十年間小説を読む仕事を続けた結果、ノーベル文学賞に相当する火星文学賞を貰った。火星では、地球とは逆に小説を読む人に文学賞が贈られるのである。もちろん、賞を貰ったこと自体は自分の仕事が認められたようで嬉しかったが、火星文学賞を貰った頃にはもう、火星に存在する読者は僕一人だけになっていた。僕は授賞式のスピーチで、小説は誰かが読まないと完成しないので皆さんも小説を読みましょうと訴えた。会場の拍手は鳴りやまなかったが、きっと誰の心にも僕の訴えは届いていないことが何となく分かったので、僕と女は次の日に火星を破壊し、また他の星へ行くことになった。
 僕は今この一連の話を元に小説を書いているのだが、移住先の金星にはまだ小説が存在しないので、これが最初の金星小説になるだろう。

【短編】 任務遂行者と監視役

window-2898044_1280[640]
 自分の正体がバレた時、必ず見るように言われていた封筒を開けるとこう書いてあった。
「この手紙を読んでいるということは、あなたは取り返しのつかないミスを犯したということですが、いまさら後悔しても仕方ありません。まずあなたは、重大なミスにより現行の任務が終了したことを自覚し、すみやかに次のプログラムへ移行する必要があります。また、現行任務の後処理等は、当局の専門班によって行われるため、あなたはこれ以上本件に関わることは許されません……」

 私はこの後、更生施設に連れて行かれ、再生プログラムというものを三年受けて再び仕事に復帰した。しかし今度の仕事は、正体がバレてはいけない任務遂行者と呼ばれるものではなく、その人間を監視する方の仕事だった。とはいえ監視役も秘密の仕事なのだから、一般の人に正体がバレることは避けなければならない。しかし、監視役は基本的に現地の人々と親しく関わることがないため、そもそも関心を向けられることがないのだ。なので任務遂行者と比べると、正体がバレることを常に心配する必要がない分、精神的には楽な仕事だと言える。

 しかし監視役を始めて五年過ぎたある時、担当していた任務遂行者の少女が自分で正体をバラすという事件が起こった。彼女は、生きて帰れる保証のない地獄のような場所へ向うことになったのだが、家族や友人に黙ったまま行くのは悲しいので、事情を説明するために正体をバラしたのだった。本来であれば正体がバレた時点で任務終了となるのだが、回収班が到着する前に旅立ってしまったので任務はそのまま続行されることになった。当然、彼女の監視役である私は責任を問われ、再び更生施設へ入ることになった。

 私はその後、仕事復帰と施設送りを何度か繰り返した。最終的には施設内の清掃をする仕事に落ち着いたのだが、またミスをしたらどうなるのか分からない。自分の正体をバラしたあの少女も、任務終了後に仕事を転々とさせられて、結局は私と同じ仕事をすることになった。特に責任が重い仕事ではないので、私も彼女もつかの間の安らぎを感じていたのだが、ある時、私たち二人に再び任務遂行者へ復帰する命令が出された。しかし私と彼女は施設から逃げ出したたため、追いかけてくる連中とたまに戦うことになったのだが、正体がバレないようにしている彼らを見てると、昔の自分たちみたいで少しかわいそうだねと最近二人でよく話すことがある。

【短編】 一人暮らし

house-2590133_1280.jpg
 私はアパートの部屋に住んでいる。それは確かなことだ。
 しかし問題なのは、玄関のドアを開けると地面が存在しないということだった。それに玄関や窓の外には暗闇が広がっているだけで何も見えないから、部屋の外がいったいどういう状況になっているのか全く分からないし、地面がないから無理に外へ飛び出したら奈落の底に落ちてしまうかもしれない。ようするに宇宙空間のような場所にアパートの部屋だけが漂っているという状況らしいのだが、いずれにしても部屋の外へは一歩も出ることが出来ないのだ。
 しかし、ありがたいことに電気や水道は止まっていないし、食材も知らないうちに補充されているので生活に困ることはない。おまけにインターネット回線も繋がっているから、ネットを楽しむことも出来る。もちろん、この状況に陥った当初はパニックになったが、生活の不便もなく、働く必要もないので、次第にこれはこれでいいのかもしれないなと思うようになった。私は元々人付き合いがほとんどないので、外に出て人に会えなくても困らないし、とりあえず生きていければそれでいいじゃないかと。

 十年ほどその奇妙な生活を続けていたある日、アパートの部屋に一人の女性が訪ねてきた。宗教の勧誘だったのだが、その女性は、存在しないはずの暗闇の地面に立って私にパンフレットを渡すのである。
「ちょっといいかな?」と私は、女性の勧誘トークを遮るように言った。「何をどう話したらいいか分からないけど、まず聞きたいのは、君がどうやってここへ来たのかということなんだ」
 すると女性は、何かを考えるように胸の前で腕を組みながら言った。
「あなたの言いたいことは分かりませんが、あなたの苦しい気持ちはお察しします。だからこそわたしは、あなたを助けるためにやって来たのです。どうやってここへ来たのかは思い出せないのですが……」
 女性の説明を聞いても何も分からなかったが、彼女にも帰る場所がなかったので、その後私たちはアパートの部屋で同居を始めた。するとそれに合わせるように、部屋の間取りが広くなったり冷蔵庫が大きくなったりした。そして彼女との間に子どもが生まれると、今度は部屋の外に庭が出現したり公園や保育園が出来た。やがて近所に人が引っ越してきたり商店街が出来たりして、彼女が来てから十年ほどで大きな街になっていったのだが、まだ暗闇の部分も多いので、うっかり落ちないように気を付けている。

【短編】 80点の面白い出来事

dog-638682_1280[640]
 クリーム坊やは焼きそばが好きだったので、毛の長い犬を見て焼きそばだと思い込むほどでした。なのでその犬が、僕は焼きそばじゃなくてアメリカン・コッカースパニエルだよと教えてくれなかったら、本当に犬の毛を食べていたことでしょう。
「アメリカの国家情報局のスパイです?」
「いや、アメリカン・コッカースパニエルだよ。それに実際に存在するのは中央情報局(CIA)だし、僕はスパイじゃない」
 クリーム坊やは、理路整然とした犬の話を聞いてつまらないなと思いました。犬が焼きそばではないとしても、せめてスパイだったら面白い展開になったかもしれないのです。だからダジャレを言ったのです。
「悪かったよ」と犬は、クリーム坊やに謝りました。「でも、犬がスパイになれるわけないじゃないか。警察犬だって、犬が単独で犯人を捜すわけじゃないし」
 クリーム坊やは、できるかできないかではなく面白いかどうかということが重要だと考えていたので、犬の話を0点にしました。そして犬の長い毛に紅ショウガと青のりを添えると、コッペパンの切れ目に犬を入れて焼きそばパンを作りました。これでようやく50点です。
「わかったよ、僕は焼きそばパンで、しかもスパイさ。見た目が焼きそばパンなら誰もスパイだとは気づかないし、それを買った人のカバンの中にも難なく潜入できる。パソコンの傍らに置かれた焼きそばパンからUSBケーブルを伸ばして、ハードディスクの情報を盗むなんてことも朝飯前さ。でもうっかり食べられちゃったら情報を本国に送れなくなるから、食べられる前に犬の姿に戻って……」
 クリーム坊やは急に犬の話を遮りました。クリーム坊やは作り話を聞きたいのではなく、面白いことが本当に起きることを期待しているのです。でも焼きそばパンになった犬が作り話を喋る様子が面白かったので、プラス2点で合計52点にしました。
「せっかく話に乗ってあげたのに、たったのプラス2点?」
 そう犬が文句を言おうとしたとき、犬の焼きそばパンが100円で売れ、点数もやっと100点になりました。でもやっぱり犬がかわいそうになったので、クリーム坊やは焼きそばパンをお客さんから返してもらうことにしました。そのことによって点数は20点マイナスされて結局80点になりましたが、それぐらいがちょうどいいねとクリーム坊やと犬は納得し、それ以来二人は80点の面白い出来事を探すようになったということです。

【短編】 猫博士

cat-2298137_1280[640]
 私は猫が好きだ。しかし自分のスクーターに小便を引っかけられのは我慢ならないし、猫が好きであることと、好きなものから被害を受けることは別問題なのである。そこで私は、向かいの家に住んでいる猫博士に相談したのだった。
「でもね、好きな相手から被害を受けることは、むしろ喜びになることもあるんじゃないかしら?」
 猫博士は年下の女性であり、私が相談するとそう答えた。しかし私が聞きたいのはそういう精神的なことではなく猫の小便をどうにかしたいという話だ、と注文を付けると、彼女は続けてこう言った。
「少なくとも、その相手から被害を受けることによって何かの繋がりを持てるわけだし、好きな相手と全く接点が持てない場合と比べれば、ずっと幸せだと思えるわけで」
 いやいや、そんなストーカーの心理みたいな話ではなくて……。
「じゃあ、手間のかかる子ほど可愛いっていう心理なら一般的でわかりやすいかしら?」
 えーと、それは被害じゃなくて子育ての苦労の話でしょ。
「いいえ、どちらも根っこは同じで、コミュニケーションを深めることが喜びに繋がるっていう話よ」

 結局、猫博士に相談しても無駄だと判断した私は、猫除けグッズであるトゲトゲ付きのシートや忌避剤などを購入して自分でどうにかすることにした。途中で猫の執念深さにくじけそうになったが、最終的にはスクーター用のカバーを掛ければどうやってもスクーター本体に被害が及ぶことはないという極めて当たり前の発想に辿り着き、半年ほどでようやく問題を解決することができた。しかしその問題解決と同時に、今度は猫博士と、私の双子の弟が結婚することになってしまったのだ。話が混乱してしまって申し訳ないが、私には双子の弟がおり、二卵性なので顔がそっくりというわけではないが、そこそこ似ているのでたまに間違われることもある。そしてもっと話が混乱してしまうことを覚悟して言うと、その弟の存在を両親から知らされたのは今から一年前のことであり、ずっと一人っ子だと思っていた私はその事実に今でも混乱している。時系列で言うと、一人っ子→双子の弟が登場(一年前)→猫の小便問題(半年前)→猫博士と弟の結婚(現在)、という流れになる。弟とは未だに兄弟らしい話ができていないし、猫博士と親しかったのは自分の方だと思っていたので、そのことに対するモヤモヤした気分について猫博士の姉である犬博士に今から相談しようと思っている。

プロフィール

Author:euReka(エウレカ)
euRekaと申します。小説や詩を書いています。

最新トラックバック

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR