【短編】生意気なマキ(修正稿)

生意気なマキ
 月猫駐車場。
 一蚊月20円也。
 尚、無断駐車につきましては発見ししだいタイ焼きの空気抜かせていただきます。
「ごちそうさまでした」
 当駐車場にご用の方は、まず、季節の変わり目に気づかぬまま弛んでしまったご自分の靴ひもを結び直し、次に月猫の沿線を走っている国道“3月に生まれた子供たち”を決して振り返ることなく横断していただきます。
「めしあがれ」
 そして一番注意してほしいのは、生意気なマキに遭遇しても知らん顔をするということ。しかし万が一マキと目があった場合はそれまでの知らん顔はやめ、まるで百年ぶりに会ったような、時間が止まったようなフリをして、君の名前は思い出せないけど一緒に爪切りをした縁側で時間が終わったあとは何が始まるんだろうって話を君としていたら庭のバッタが言ったよね、時間が終わったら一番好きな人と一緒になれるんだけどその人が誰なのか時間が終わったあとではもう何も思い出せなくて初めて会ったのになぜか懐かしく感じるのは既に時間の終わった世界を生きている二人の間にかつての失われた時間が存在したという確かな証拠なんだよとと昔話をして下さい。
 すると生意気マキは生意気に「マキはマキだからマキだもん」と反駁を試みてきますので、いったんマキの言葉に耳を傾けてみましょう。
「だってマキは3月に生まれた子どもなんだからね。誰もマキの3月を奪えないんだからね。3月に生まれた子どもは何かを失おうにも失う暇さえなかった。会いたくて会いたくて痛くて死にそうなのに会えなかった。手足が5本生えていたり目が1つしか貰えなかった子どもは母さんの暗いお腹の中で殺された。マキはその死んだ子どもたちを集めて3月を作ったの。だからマキは3月に生まれることにしたの。誰もマキの3月を奪えない」
 そう言い終わると生意気なマキは、道路の真ん中にしゃがみこんで一枚の写真を差し出すでしょう。そこにはかつて存在した月猫駐車場や国道の姿が写っています。当時はまだ月猫ではなく月極でした。しかし駐車する車も居なくなり、草は生え放題で蚊と猫の棲みかになってしまったのです。
「かつては国道を挟んだ月猫の向かいにタイ焼き屋があってね、駐車場はタイ焼き屋の主人がやっていたの。きっと未来は人も絶え、何もない草原に月だけが浮かんでいるのでしょうね。ご用のある方は、ただ国道を横切ればよかったのよ……。この看板を立てたのは生意気なマキでした」
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Author:euReka(エウレカ)
euRekaと申します。小説や詩を書いています。

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