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【短編】 妹と輪ゴムとビデオテープ

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 部屋で輪ゴムを無くした。もちろん一つや二つ無くしても困ることはない代物である。しかしどうにも納得がいかなかった私は、その喪失感を演劇風に表現することにした。
「おお神よ! あなたは輪ゴムのようなつまらないものまで私から奪うのか? 幼い頃、私から妹を奪ったように!」
 私には妹などいないのだが、喪失感を表現しているうちに妹が昔いたような気分になったのだ。
「あなたが無くしたものはこれね」
 後ろを振り向くと迷彩服を着た女が私にライフルを向けて立っていた。
 そしてライフルの先には輪ゴムがぶら下がっている。
「これから、あなたの妹を奪い返しに行くわよ」

 私は迷彩服の女に手を引っ張られながら、どんどん森へ入っていった。しかし、さっきまでいた部屋の周りは住宅地なので森などないはずである。それに妹の存在や、妹が奪われたという話は私の空想でしかないのだが、そのことを何度説明しても女は笑顔を返すばかりだった。
「関係ないけど、明日地球が爆発したら、たこ焼き屋を始めようと思うの」
 女は森の開けた場所まで来ると足を止めた。そこには中世の騎士や、日本の武士や、数学の教師などが大勢いて、何かを守るように私たちを睨んでいた。
「たこ焼きって食べたことないけど、形がかわいいし、きっと味も美味しいんでしょうね」
 女はそう言うと一握りの輪ゴムを私の手に握らせ、これを飛ばして騎士や武士や教師を倒せと言う。私は馬鹿げていると思ったが、彼らが恐い顔をして攻めてきたので仕方なく輪ゴムを指で飛ばした。するとさらに馬鹿げたことに、輪ゴムはとんでもない勢いで飛んでいき、騎士や武士や教師たちを紙人形のように次々と倒していった。

 で、結局妹は誰だったのかというと、実は迷彩服の女がそうだったという展開を私は予想していたのだが、やっぱりその通りになってしまった。騎士や武士や教師たちが守っていたのは古いビデオテープであり、森の中に都合よく置いてあったビデオデッキとテレビで再生してみると、そこには幼い頃の私と妹が映っていた。昔住んでいた家の様子や、まだ若かった頃の父と母の姿も。
「明日地球が爆発しなかった場合の予定は、まだ立ててないの」
 妹は私の空想の中にずっと閉じ込められたまま、たこ焼きさえ食べられなかったのだ。なので熱々のたこ焼きがどんなに熱々なのかも知らないのだと思うと、目の前にいる妹が妹のように思えてきたので不思議だなと思った。
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【短編】 機械の妹

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 妹は欲望を持っている。見た目は褐色の小石であり、表面がつるつるしているので触り心地は悪くない。
「あんまりじろじろ見ないでよ」と妹は言うと、私の手からそれを奪い返した。「兄さんみたいに欲望を持っていない人には分からないでしょうけど、これは誰かに見せたり、触らせたりするのはとても恥ずかしいことなの」
 世の中のほとんどの人間は私のように欲望を持っていないので、妹のように持っている人間はうらやましく思われたりもする。欲望は一生働かなくていいほどのお金で売れるとか、欲望を使えば一度だけ生き返ることが出来るといった話があるからだ。
「でもあたしは誰かに売る気はないわ」と妹は遠くを見ながら言った。「それに、死んだあと生き返るっていうのも、ゾンビみたいで嫌ね」

 妹は、以前に宣言した通り欲望を売ることはなかったが、あるとき、空から降ってきた隕石に当たって死んでしまった。生前の妹は、生き返りをあまり望んでいなかったようだが、私はどうしても妹の死を受け入れることが出来なかった。
 実際にやってみて初めて知ったのだが、欲望を使った生き返りとは、誰もが想像する肉体の生き返りではなかった。それは欲望の小石を機械に組み込んで、本人の欲望を受け継いだ機械人間を作ることだったのだ。そして妹に当たった隕石というのは、調べてみると、どこかの宇宙人が持っていた欲望の小石だということが分かった。なので私は、それをお金に換えて機械の妹を作る資金にした。

 機械の妹を完成させるのに十年もかかってしまったが、見た目や声はそっくりに作ることが出来たし、妹の欲望も上手く機械に移植することが出来た。長い眠りから覚めた妹に一連の事情を説明すると、悪い冗談はやてめてよと言って信じようとしなかった。
「もしその話が本当だとしても、あたしはただ生きていくだけよ」

 それからしばらくすると、妹を一度死なせてしまったあの隕石の元々の持ち主が現れて、妹に結婚を申し込んできた。彼は宇宙人だったが、耳が少し長いというところ以外は我々と変わらない姿だった。彼の隕石を勝手に売ってしまったことを私が謝ると、彼は妹に隕石をぶつけてしまったことを謝った。
 結局、妹は宇宙人と結婚することはなかったが、今度は宇宙飛行士になって旅へ出てしまった。三百年後には帰ってくる予定だと言っていたので、今私は、未来の妹を迎えに行くためのタイムマシーンを作っているところだ。

【短編】 小説機械

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 SF小説のような話になってしまうが、私は小説を書く機械である。小説機械というと、テーマや登場人物などの条件を与えると自動的に小説が作成されるという従来のタイプを想像する人も多いだろう。しかし私の場合は、与えられる条件が無く、すべてを自由に書くことが求められる特殊なタイプの機械なのだ。だから必ずしも人間が読みたいものを書けるわけではないし、話が脱線したり、いつまで経っても終わらないこともある。

 そういえばこの間、近所の子どもが訪ねてきて夏休みの自由研究を手伝って欲しいと頼まれたことがあった。自由研究とは自由に研究の題材を決めて取り組むものであり、その子どもは、自由に決めていいと逆に何をやっていいのか分からなくなるということで悩んでいたのだった。自由に対する悩みは私も同じだったので、私と子どもは、とりあえず縁側でスイカを食べながら種の飛ばし合いをしてその距離を競うことにした。ちなみに私は人間とそっくりの姿をした機械なので、スイカを食べたり人と直接喋ったりすることが出来るのである。なぜ人間そっくりの姿に造られたのかというと、小説を書くためには人間としての経験が必要じゃないかと私の製造者が考えたからだ。なので私は、機械でありながら学校へ通ったり、友情や恋を経験したこともある。学校のみんなは私が機械であることを知っていたのだが、私が人間の姿をしていたせいか、友情や恋心を示してくれた子も何人かいた。そして私のことを好きだと言ってくれた女の子とはデートをしたり、性行為に及びそうになったこともあった。彼女は、人間か機械かなんて関係ないと言って私を抱きしめてくれたのだ。しかし、そのことを知った製造者と学校側からストップがかかってしまい、私は学校を退学させられて、彼女との関係もそれっきりになってしまった。

 私は小説を自由に書くことを人間に求められてはいるが、すべての行動の自由が認められているわけではなく、そこには機械としての限界があるのだ。しかしそれもまた人生であるし、もしすべてが思い通りになったら、小説に書くことが無くなって私は困ってしまうだろう。ところで言い忘れていたが、私が今いる場所は南極であり、縁側の向こうには白い氷原が広がっている。スイカの種飛ばしに飽きた子どもはペンギンを氷の上で滑らせるという遊びを思いついたようで、自由研究の悩みなど初めからなかったようにはしゃいでいる。

【短編】 火星小説

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 女は僕が帰ってくると、ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも地球を破壊しますか? と質問する。それで僕がご飯にしますと言うと、女は不満そうな顔で、あなたが全部悪いんですからねと呟きながら地球を破壊した。僕と女が火星へ行くことになった経緯はそんなところなのだが、問題なのは、これから僕と女は火星でどう生きていけばいいのかということだった。そこで火星の人に相談したところ、地球出身なら小説で食べていけばいいとアドバイスをしてくれた。

 火星では誰でも小説を書いており、地球とは逆に、大勢の人が書いた小説をごく少数の人が読むという、圧倒的な読者不足の状況だった。とにかく火星の人にとっての小説とは、読むものではなく書くものであり、他人の書いた小説には全く興味が無いのだ。そして火星の場合は、小説を書いた人ではなく読んだ人に報酬が支払われる仕組みになっていたため、小説を読むだけで生活費を稼ぐことが可能だった。長編なら月に五編、短編なら三十編も読めば一ヵ月分の生活費が得られるのだ。

 小説を読む仕事をしていて気になったのは、その内容が、小説そのものについて書かれたものばかりだったこと。一番多いのは、小説を書いても誰も読んでくれないという火星小説の状況をひたすら嘆くものであり、読んでいると気が滅入ってくるし、そりゃ誰も読まないよなと思わせる内容だった。しかし中には、火星の現状を打破するために地球から読者を大量に移住させるといった比較的ポジティブなものもあったが、結局、火星の人自身が変わるという発想にはならないようだった。
 僕は三十年間小説を読む仕事を続けた結果、ノーベル文学賞に相当する火星文学賞を貰った。火星では、地球とは逆に小説を読む人に文学賞が贈られるのである。もちろん、賞を貰ったこと自体は自分の仕事が認められたようで嬉しかったが、火星文学賞を貰った頃にはもう、火星に存在する読者は僕一人だけになっていた。僕は授賞式のスピーチで、小説は誰かが読まないと完成しないので皆さんも小説を読みましょうと訴えた。会場の拍手は鳴りやまなかったが、きっと誰の心にも僕の訴えは届いていないことが何となく分かったので、僕と女は次の日に火星を破壊し、また他の星へ行くことになった。
 僕は今この一連の話を元に小説を書いているのだが、移住先の金星にはまだ小説が存在しないので、これが最初の金星小説になるだろう。

【短編】 任務遂行者と監視役

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 自分の正体がバレた時、必ず見るように言われていた封筒を開けるとこう書いてあった。
「この手紙を読んでいるということは、あなたは取り返しのつかないミスを犯したということですが、いまさら後悔しても仕方ありません。まずあなたは、重大なミスにより現行の任務が終了したことを自覚し、すみやかに次のプログラムへ移行する必要があります。また、現行任務の後処理等は、当局の専門班によって行われるため、あなたはこれ以上本件に関わることは許されません……」

 私はこの後、更生施設に連れて行かれ、再生プログラムというものを三年受けて再び仕事に復帰した。しかし今度の仕事は、正体がバレてはいけない任務遂行者と呼ばれるものではなく、その人間を監視する方の仕事だった。とはいえ監視役も秘密の仕事なのだから、一般の人に正体がバレることは避けなければならない。しかし、監視役は基本的に現地の人々と親しく関わることがないため、そもそも関心を向けられることがないのだ。なので任務遂行者と比べると、正体がバレることを常に心配する必要がない分、精神的には楽な仕事だと言える。

 しかし監視役を始めて五年過ぎたある時、担当していた任務遂行者の少女が自分で正体をバラすという事件が起こった。彼女は、生きて帰れる保証のない地獄のような場所へ向うことになったのだが、家族や友人に黙ったまま行くのは悲しいので、事情を説明するために正体をバラしたのだった。本来であれば正体がバレた時点で任務終了となるのだが、回収班が到着する前に旅立ってしまったので任務はそのまま続行されることになった。当然、彼女の監視役である私は責任を問われ、再び更生施設へ入ることになった。

 私はその後、仕事復帰と施設送りを何度か繰り返した。最終的には施設内の清掃をする仕事に落ち着いたのだが、またミスをしたらどうなるのか分からない。自分の正体をバラしたあの少女も、任務終了後に仕事を転々とさせられて、結局は私と同じ仕事をすることになった。特に責任が重い仕事ではないので、私も彼女もつかの間の安らぎを感じていたのだが、ある時、私たち二人に再び任務遂行者へ復帰する命令が出された。しかし私と彼女は施設から逃げ出したたため、追いかけてくる連中とたまに戦うことになったのだが、正体がバレないようにしている彼らを見てると、昔の自分たちみたいで少しかわいそうだねと最近二人でよく話すことがある。

【短編】 一人暮らし

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 私はアパートの部屋に住んでいる。それは確かなことだ。
 しかし問題なのは、玄関のドアを開けると地面が存在しないということだった。それに玄関や窓の外には暗闇が広がっているだけで何も見えないから、部屋の外がいったいどういう状況になっているのか全く分からないし、地面がないから無理に外へ飛び出したら奈落の底に落ちてしまうかもしれない。ようするに宇宙空間のような場所にアパートの部屋だけが漂っているという状況らしいのだが、いずれにしても部屋の外へは一歩も出ることが出来ないのだ。
 しかし、ありがたいことに電気や水道は止まっていないし、食材も知らないうちに補充されているので生活に困ることはない。おまけにインターネット回線も繋がっているから、ネットを楽しむことも出来る。もちろん、この状況に陥った当初はパニックになったが、生活の不便もなく、働く必要もないので、次第にこれはこれでいいのかもしれないなと思うようになった。私は元々人付き合いがほとんどないので、外に出て人に会えなくても困らないし、とりあえず生きていければそれでいいじゃないかと。

 十年ほどその奇妙な生活を続けていたある日、アパートの部屋に一人の女性が訪ねてきた。宗教の勧誘だったのだが、その女性は、存在しないはずの暗闇の地面に立って私にパンフレットを渡すのである。
「ちょっといいかな?」と私は、女性の勧誘トークを遮るように言った。「何をどう話したらいいか分からないけど、まず聞きたいのは、君がどうやってここへ来たのかということなんだ」
 すると女性は、何かを考えるように胸の前で腕を組みながら言った。
「あなたの言いたいことは分かりませんが、あなたの苦しい気持ちはお察しします。だからこそわたしは、あなたを助けるためにやって来たのです。どうやってここへ来たのかは思い出せないのですが……」
 女性の説明を聞いても何も分からなかったが、彼女にも帰る場所がなかったので、その後私たちはアパートの部屋で同居を始めた。するとそれに合わせるように、部屋の間取りが広くなったり冷蔵庫が大きくなったりした。そして彼女との間に子どもが生まれると、今度は部屋の外に庭が出現したり公園や保育園が出来た。やがて近所に人が引っ越してきたり商店街が出来たりして、彼女が来てから十年ほどで大きな街になっていったのだが、まだ暗闇の部分も多いので、うっかり落ちないように気を付けている。

【短編】 80点の面白い出来事

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 クリーム坊やは焼きそばが好きだったので、毛の長い犬を見て焼きそばだと思い込むほどでした。なのでその犬が、僕は焼きそばじゃなくてアメリカン・コッカースパニエルだよと教えてくれなかったら、本当に犬の毛を食べていたことでしょう。
「アメリカの国家情報局のスパイです?」
「いや、アメリカン・コッカースパニエルだよ。それに実際に存在するのは中央情報局(CIA)だし、僕はスパイじゃない」
 クリーム坊やは、理路整然とした犬の話を聞いてつまらないなと思いました。犬が焼きそばではないとしても、せめてスパイだったら面白い展開になったかもしれないのです。だからダジャレを言ったのです。
「悪かったよ」と犬は、クリーム坊やに謝りました。「でも、犬がスパイになれるわけないじゃないか。警察犬だって、犬が単独で犯人を捜すわけじゃないし」
 クリーム坊やは、できるかできないかではなく面白いかどうかということが重要だと考えていたので、犬の話を0点にしました。そして犬の長い毛に紅ショウガと青のりを添えると、コッペパンの切れ目に犬を入れて焼きそばパンを作りました。これでようやく50点です。
「わかったよ、僕は焼きそばパンで、しかもスパイさ。見た目が焼きそばパンなら誰もスパイだとは気づかないし、それを買った人のカバンの中にも難なく潜入できる。パソコンの傍らに置かれた焼きそばパンからUSBケーブルを伸ばして、ハードディスクの情報を盗むなんてことも朝飯前さ。でもうっかり食べられちゃったら情報を本国に送れなくなるから、食べられる前に犬の姿に戻って……」
 クリーム坊やは急に犬の話を遮りました。クリーム坊やは作り話を聞きたいのではなく、面白いことが本当に起きることを期待しているのです。でも焼きそばパンになった犬が作り話を喋る様子が面白かったので、プラス2点で合計52点にしました。
「せっかく話に乗ってあげたのに、たったのプラス2点?」
 そう犬が文句を言おうとしたとき、犬の焼きそばパンが100円で売れ、点数もやっと100点になりました。でもやっぱり犬がかわいそうになったので、クリーム坊やは焼きそばパンをお客さんから返してもらうことにしました。そのことによって点数は20点マイナスされて結局80点になりましたが、それぐらいがちょうどいいねとクリーム坊やと犬は納得し、それ以来二人は80点の面白い出来事を探すようになったということです。

【短編】 猫博士

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 私は猫が好きだ。しかし自分のスクーターに小便を引っかけられのは我慢ならないし、猫が好きであることと、好きなものから被害を受けることは別問題なのである。そこで私は、向かいの家に住んでいる猫博士に相談したのだった。
「でもね、好きな相手から被害を受けることは、むしろ喜びになることもあるんじゃないかしら?」
 猫博士は年下の女性であり、私が相談するとそう答えた。しかし私が聞きたいのはそういう精神的なことではなく猫の小便をどうにかしたいという話だ、と注文を付けると、彼女は続けてこう言った。
「少なくとも、その相手から被害を受けることによって何かの繋がりを持てるわけだし、好きな相手と全く接点が持てない場合と比べれば、ずっと幸せだと思えるわけで」
 いやいや、そんなストーカーの心理みたいな話ではなくて……。
「じゃあ、手間のかかる子ほど可愛いっていう心理なら一般的でわかりやすいかしら?」
 えーと、それは被害じゃなくて子育ての苦労の話でしょ。
「いいえ、どちらも根っこは同じで、コミュニケーションを深めることが喜びに繋がるっていう話よ」

 結局、猫博士に相談しても無駄だと判断した私は、猫除けグッズであるトゲトゲ付きのシートや忌避剤などを購入して自分でどうにかすることにした。途中で猫の執念深さにくじけそうになったが、最終的にはスクーター用のカバーを掛ければどうやってもスクーター本体に被害が及ぶことはないという極めて当たり前の発想に辿り着き、半年ほどでようやく問題を解決することができた。しかしその問題解決と同時に、今度は猫博士と、私の双子の弟が結婚することになってしまったのだ。話が混乱してしまって申し訳ないが、私には双子の弟がおり、二卵性なので顔がそっくりというわけではないが、そこそこ似ているのでたまに間違われることもある。そしてもっと話が混乱してしまうことを覚悟して言うと、その弟の存在を両親から知らされたのは今から一年前のことであり、ずっと一人っ子だと思っていた私はその事実に今でも混乱している。時系列で言うと、一人っ子→双子の弟が登場(一年前)→猫の小便問題(半年前)→猫博士と弟の結婚(現在)、という流れになる。弟とは未だに兄弟らしい話ができていないし、猫博士と親しかったのは自分の方だと思っていたので、そのことに対するモヤモヤした気分について猫博士の姉である犬博士に今から相談しようと思っている。

【短編】 忘れ物

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 アパートのドアを開けると知らない子どもが畳の上に立っていた。なので私は、今日からここに住むのだから早く出ていきなさいと子どもに言ってやったが、当の子どもはぽかんとしているばかりだし、荷物を運ぶ作業も忙しかったのでとりあえず放っておくことにした。しかし、一通り作業が終わる頃になってもまだ子どもは部屋から出ていかなかったので、アパートの大家に電話してみると、あれは気にしない人は気にしないし別に害はないんですけどねえと弁解した。だがそれでは困ると私が訴えると、毎月の家賃を五千円安くしてもいいと大家が言うので、私はしばらく様子を見てみることにした。

 半年後、仕事から帰ってアパートに入ると、新聞紙で作ったバスケットボールのようなものがいくつも転がっているのが目に入った。一日中部屋で過ごすのは退屈だろうと思い、あらかじめ子どもに古い新聞紙を与えてこれで好きに遊んでいいと言っておいたのだ。初めはただ千切ったり丸めたりするだけだったのに、その日見たものは見事な球形をしており、畳の上に落とすとちゃんと跳ねるのである。不思議に思ってカッターで切ってみたが、それはただ新聞紙を重ね合わせて作られただけの代物であり、特別な材料が使われている様子はなかった。子どもはその後もボールを作り続け、五年後には直径が二メートルもあるボールが出来上がっていた。そのせいで六畳間の半分がボールに占領されてしまい、これはボール作りをやめさせる潮時だなと考えていたのだが、震度七の地震が起こったのが丁度そのときだった。部屋の中は落ちたり倒れたりしたものが散乱して足の踏み場もない状態になったが、巨大なボールだけは何事もなかったように鎮座しているのである。

 結局、アパートは半壊状態になり、余震で崩れる危険があったためもう部屋に住むことは出来なくなってしまった。そこで私は例の巨大なボールを何とか外に出してカッターで穴を開け、その中でしばらく避難生活をすることにした。近所の人には変な目で見られたが、そんなことを気にする余裕はなかったし、ボールの中は意外と快適だった。地震から三週間ほどで新しいアパートに引っ越すことができたのだが、新居のドアを開けたとき、私は何か忘れ物をしてきたような気分になった。地震のごたごたで忘れていたのだが、あの子どもは地震の日から見ていないような気がする。ボールのお礼を言えなかったのが心残りである。

【短編】 手続き

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「猫になってしまうと国民としての諸権利や、財産、人間の言語などが失われてしまいますが、そのことに同意しますか? ……はい、では猫になったあと、その実施日から数えて八日以内であれば人間に戻ることができますが、そのことはご存知ですか? ……はい、では実施日から数えて八日間は、国民としての諸権利や、財産、人間の言語は保持されますが、それを過ぎると諸権利等が失われ、原則的に人間に戻ることはできなくなりますので十分ご注意下さい。……はい、えーと“原則的に”とはどういうことかについてはですね、たとえ九日以降でも、国民としての諸権利は再び国籍を得ることで取り戻すことができますし、財産に関しても譲渡した相手によっては返還してもらえる場合があります。しかし、人間の言語は一度手放してしまうと再び取り戻すことが難しいため、その場合は精神的な面や社会的な存在としては猫のままという状態になってしまい、完全な人間には戻れなくなってしまうため、“原則的に”人間には戻ることができないということです。……そして“社会的な存在として猫”というのは、例えば、突然知らない人から頭やのどを撫でられたり、幼児言葉で話しかけられたりすることがあるということです。しかし、仕事をさぼったり居眠りをしても怒られることはありませんし、むしろ癒しをもらえる存在として大事にされることも多いでしょう。何しろ、存在としては猫なのですからね。……はい、仕事に関しましてはですね、完全な猫の場合は何か仕事をしたとしても法律上の労働とは認められませんが、いま問題にしている人間に戻り損ねた状態の場合は、国籍を得ることによって労働をする権利を得ることができます。ただし、人間の言語が失われているため一般的な仕事をすることはほぼ不可能ですので、企業等のマスコットや動物タレントなどの特殊な仕事に限られることになるでしょう。そして社会的な存在として猫であるなら人に飼ってもらうことができますし、無理に働かなくても食事と棲む場所を確保することは可能です。……はい、人間に戻り損ねた状態はどんな見た目になるのか、ということについては……それは説明が非常に難しいのですが、人間でも猫でもない何か、ということになるでしょう。そもそも“存在として猫”である場合は猫として認識されるため、どんな見た目であれ猫として扱われるということです。……手続きは以上になりますが、他に質問はございませんか?」

プロフィール

Author:euReka(エウレカ)
euRekaと申します。小説や詩を書いています。

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