【詩】2011年・詩集〈下〉

110917
《今あなたが息をしてることと同じくらい普通のこととして》
福島で生まれ
福島で育ち
福島で結婚をして
福島で子どもを産みたい
っていう当たり前なことさえ
今の福島じゃ無理かもしれないってことも
私じゅうぶん分かっています
だけど私にとって一番大切なことはね
今この瞬間を
たしかに生きているっていうこと
そして
「福島」っていう場所で
ちゃんと息をしながら生きてる人がいるっていうことを
今あなたが息をしてることと同じくらい普通のこととして
あなたに認めて欲しいってことなんです
それに福島には
「死のまち」なんてありません
福島にあるのは
どこにでもあるような日常の中で
どこにでもいるような人々が
一秒一秒を生きているっていう現実だけです
もし何かが死んでいるのだとすれば
それはきっと場所じゃなくて
それはきっと
私やあなたが
福島のために良かれと考えながら切り捨てた
心の一番柔らかい部分です
柔らかいから一番よわくて
一番すてきな部分です
だから心は夢を見て 矛盾して
引き裂かれて 悲鳴を上げて
だけど
私いろいろと考えて
やっぱり

福島で幸せになりたい って

はっきり声に出して言います
そして
いつか好きな人の腕の中で
死をうけいれながら
福島は決して死んでいなかったっていうことを
心を忘れなかったことを
私 世界中の人たちに
教えなきゃいけないから



110928
《猫は最後の血をあなたのバスタオルに吐きながら》
天地がひっくり返ったまま
なんとなく続く
日常のスクリーンの中に
わたしがいて
あなたがいて
死にかけた猫がいて
乾いた秋の空気の中で揺れる
洗濯物の白いシャツにとまった草色のバッタが
一瞬だけわたしを見たあと
「ぴょん」と言いながら夕日に向かって素っ気なくジャンプした
猫は最後の血をあなたのバスタオルに吐きながら
「幸せだったよ」とわたしに最初の強がりを言った
日本語で



111028
《私たちの秘密》
夏の木の下で待っていた
あなたの白いワンピースは不満そうに膨らみながら
あなたの体を地面から奪い取ろうとしていた
でも浮き上がろうとするそのタイミングに
私が精一杯走ってあなたの腕を握ったから
あなたはようやく空に奪われなくて済んだのですよと
あれから百年後の秋の木の下で
やはり私を待っていたあなたに説明すると
あなたは赤いカーディガンの奥から腕を伸ばし
もう動かなくなった私の心臓を掴んだ
木の上に棲むリスは
秋の実をじっと握りしめながら
私たちの秘密を静かに語り始めた
まずはこの世界が
生まれた理由から


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【詩】2011年・詩集〈中〉

110505
《壊れた時計のように見捨てられた》
私の中に私はいなくて
あなたの中にも あなたはいなくて
雨の音や コーヒーの香りの中に私がいて あなたがいて
ソファの座り心地の中にいる 私とあなたは
もはや私でも あなたでもなくて
それは壊れた時計のように見捨てられた
人知れず永遠を刻み続ける孤独な残骸としての心地良さかもしれず
私の中の私は
もう死んでいるのだと
ふいに気がついた私はあなたの手をぎゅっと 握りしめた



110522
《君と僕が最初に出会う場面からもう一度》
砂漠のように世界が無化された場所では
水と愛が何より貴重であり
人は水と愛に飢えた 引き裂かれるような喉の渇きを癒すために
すべての血を我がものにしなければ
とても生きてはいけないと考えるのであって
世界が無化された場所では
限られた血の恵みを所有するために
常に誰かより 自分のほうが優位であることを証明しなければならず
いつも誰かを傷つけなければならず
その罪を背負い続けることが
つまり人生なのだと
そこまで突き詰めて自分を正当化しなければ
呼吸さえ満足に出来ない硬直した空気の中で
君と僕が最初に出会う砂漠の場面からもう一度だけ
絶望をやり直してもいいかい?



110530
《夢のように酔いしれた、現実からの》
私がアウシュビッツにいた頃
世界は重力に耐えることをやめました
人種とか憎悪とか そんなものはすでに問題ではなく
いかにすれば効率的に 大量に人を殺せるかという
実験材料としての価値の中で
私たちは言わばモルモット以下の
数字の中で表されるための存在として生かされた
絶望の絶対値を見つけるための試みでした
私がアウシュビッツにいた頃
鳥は相変わらず空を飛び
雪は世界を白く染めました
私たちはひたすら 出口を探していたのだと思います
このいつまでも醒めない
夢のように酔いしれた 現実からの



110913
《ウサギだって燃えてる》
笑う
泣く
時々 殺す
プレーンヨーグルトに蝿が沈む
地デジチューナーから煙が出る
ウサギが指をなめる
震度3
僕のヘソの緒をかじった虫から
ストロンチウム90を検出
その因果関係は
三角関係のこじれが原因だと報道官は伝える
ウサギはめったに鳴かない
僕は蝿の沈んだプレーンヨーグルトを棄てる
震度5弱
ツイッターの炎上を横目に眺める
もっと別の生き方もあるのかもしれないと思う
リカちゃんが人形をやめる日
僕は人間をやめるかもしれないと
送るあてもないメールを 透明な空気に向かって打つ
震度8
ウサギが鳴く
僕のヘソの緒がゆっくりと溶融する
本当にこれで良かったのか?
地デジチューナーはすでに炎に包まれ
リカちゃんは衣装を脱ぎすて表情をゆるめる
これで私も人間になれたわ
着せ替え人形なんてウンザリだったの
ねえ 最初の柔らかいキスをして
しかしマグニチュード9だぜ
と言って僕は熱で歪みかけたリカちゃんをなだめる だってチェルノブイリ級のレベル7なんだぜ
そんなの関係ないわ
しかしウサギだって燃えてるぜ
なんて完全に終わった顔しながら叫んでるあなただって
真っ赤な夕日みたいに
キラキラと燃えてるよ


【詩】2011年・詩集〈上〉

110125
《交換しましょ》
あなたはあなた 私は私
それはそうですけど なんだか少しつまらないので
あなたを少し 私を少し 交換したら
少しはましになるでしょ 気がまぎれるでしょ
あなたはあなたであることに疲れてて
私は私であることに失望してて
だったら交換したら
私があなたになったら
私はあなたの中で生きて
恋して 死んでいきます
だからあなたも私の中で生きて
恋して 死んでください
そしていつか
果てしない旅の途中でいつか
未来を生きる誰かの中でまた
あなたに会いたい



110202
《役割》
人にはそれぞれ 天から与えられた役割があるというが
私にも役割なんてあるのだろうか?
そしてもし役割を果たせぬまま死んだら
私はただの役立たずだろうか?
みじめな人間だろうか?
そもそも私の役割って何ですか?
たとえ私がこの世から消えても 地球はなに食わぬ顔して回り続けるだけではないですか?
そう考えると 人間とか生き物って
ひどく虚しくて孤独だな
地球が毎日繰り返す 律儀な自転運動の前では
虫けらの役割と 人間の役割に
大した違いなんて無いような気もするが
ただ踏み潰されるだけの役割と
それを踏み潰す側の役割という
そんな大きな違いが なぜ存在するのだろうか?
戦争や天災や横暴な政治の前では 人間といえど虫けらのように踏み潰されて
私たちの役割は 偉い人間様と みじめな虫けらの間を行ったり来たりしていて
やがて私たちの命の役割は
人間も虫けらも区別がつかないほどに
重なり合って 溶け合って 笑うしかなくて
それを見ていた神様は
天の上であくびでもしているのだろうか?
役割なんて与えた覚えはない
与えたのは 命だけであると



110224
《こころのケアして》
ほんとにいい子
ほんとにいい子ら ぷんっ
ねね ねんがじょうのみみずのえを
みましたよ うさぎのえもみましたよ
ありがとう
ねねのきんぎょもげんきです
にっぽんむかしばなし
ぎょぐんたんちき
はるになったら なにしたいですか?
ねねは はるがきらいです
じゃんけんぽん
とっとっと
切手しゅうしゅう
ぱりのそら
ながいとんねるをぬけると そこに猫がいました
まだ名前はありませんが 子猫をうみました
めでたしめでたし
こころのケアして
ほうしゃのう
からあげべんとう
夏の雲だよ
ねねね ねむたくなったからねるね
ばいばい



110313
《ゲームは終了しました》
うみうしのあとを
私こっそりついていったら
磯のにおいがして
波のおとがきこえてきました
すると磯のほうから牛がやってきて
うみうしと何かを話しているようでした
空を見上げると白い鳥が
おとも立てずにおおきな
空いっぱいにおおきな円をかきました
うみうしと牛はさよならを言ってわかれ
それぞれの場所にかえっていきました
これで私もあんしんして
私の場所へかえれます
ゲームは終了しました



110426
《怒りも、祈りも、消え失せた世界で》
不思議と
怒りや 祈る気持ちにはなれないのです
たとえ怒ったところで
そこには ただ弱わりきった人々の群れが どこまでも広がっているばかりですし
たとえ祈ったところで
そこには 祈りを受け取ってくれる神様も 奇跡も無いように思えるのです
こんな気持ちになったのは まったく初めてのことで
以前は いつも何か大きなものに 守られているような 思い込みというか 前提があったように思うのですが
今度の事は その大きな存在が
小さなわれわれの愛であるとか
日常であるとか 未来へのささやかな期待さえ
容赦なく ためらいもなく踏み潰してしまったという
でもよく考えてみれば そんなことはどこにでもあることで
例えば 子どもは生きるために 親にたいして死にもの狂いで愛を求めますが
その一途な 全存在をかけて愛を欲しがるわが子を
傷つけ 死なせるような 出来事など
この世には 山のようにあることで
じつは3月11日以前から
怒りも 祈りも
消え失せてしまった子どもたちの心に
われわれは一歩か二歩 近づいただけであって
世界がひっくり返って のたうちまわって
それがきっと 普通なんですね


プロフィール

Author:euReka(エウレカ)
euRekaと申します。小説や詩を書いています。

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