【短編】 超能力カップル

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 僕たちは超能力カップルと呼ばれている。といっても本当に付き合っているわけではなく、たまたま同じ学校の同じクラスに超能力を持った男女がいたという、それだけの話だ。
「そこは、たまたまじゃなくて運命でしょ」とクラスの女の子がはやし立てる。「すべてのことは偶然じゃなくて、この世界が始まったときから決まっていたのよ」
 そんなことより僕は超能力カップルという馬鹿げた呼び方をどうにかして欲しかった。
「運命的に出会った二人は」とクラスの女の子は、僕の気持ちなど構わずに話し始める。「二人はお互いを意識しているのに上手く話せないの。でもある日、巨大なUFOが現れて、私たちの学校が宇宙人に占領されてしまうのよ」

「宇宙人の命令で体育館に集められた生徒たちはただ怯えるしかなかったけど、ユウジにはある作戦があったから、瞬間移動の能力を使ってもう一人の超能力者であるユウコを外に連れ出したの。作戦っていうのはつまり瞬間移動でUFOに乗り込んで、宇宙人のボスを捕まえて、脅して、生徒たちを解放させるってこと。ユウコには物を破壊したりする念動力があるから、一緒に行けば何とかなるって考えたわけね。で、超能力カップルの作戦はみごと成功して生徒たちも無事解放されたんだけど、なぜか二人はUFOに残って宇宙人たちの星へ行くことにしたの。二人は宇宙人のボスに出会った瞬間、自分たちが本当は宇宙人の子孫だということを直観的に知ってしまったのよ。そしてボスの方も電流が走ったみたいにそれに気づいちゃって、こんな辺境で同胞に出会えるなんて思わなかった、ぜひ我が星へっていう流れになって」

 ずいぶん無茶苦茶な話だけど、もう一人の超能力者である彼女は黙って弁当を食べている。
「宇宙人の星にたどり着いた二人は、星の特別な大気のせいで歳を取らないまま長い年月を過ごしていたのだけど、千年後に今度は地球人がその星を攻めてきたの。で、二人は前回と同じ要領で地球人を屈服させて、地球人たちと一緒に地球へ帰って、それからタイムマシーンに乗って、また千年前の現代に戻ってくるのよ」
 彼女は弁当を食べ終えると念動力でチョークを動かし、「死にたい」と黒板に書いた。
「でもユウコはタイムスリップの途中で時間嵐に飲み込まれてしまった。だからユウジはユウコを探し出すために今度は時間の旅へ出るの」
 僕は黒板消しで彼女の文字を消した。そして「生きろ」と黒板に書いた。
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【短編】 いつか私を殺しにくる

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 その日は歯がとても痛かった。どれぐらい痛かったかということは説明しても伝わらないと思うので、おのおの今までに自分が一番痛かった歯の痛みや何かの痛みを思い出して欲しい。もし上手く思い出せなくても、話は勝手に進んでいくだけなので文字を追ってもらえればそれでいい。
 本当のところ、もう一週間も前から痛みが続いていたのだが、その日は痛み止めも全く効かなくなっていた。なので、私はとうとうその“痛み”と向き合うしかなくなったというわけだ。
 一時間だけでいいから休ませてくれないかと懇願すると、黒マントに身を包んだ“痛み”は、困った顔をしながら私の頬をなでた。
「あなたが辛いのは分かるけど、これも仕事だから仕方ないのよ」
「へえ、仕事なら何でもするのかい? 人殺しもするのかい?」
「今回は殺すところまではいかないわ。ただ痛いだけよ」

 私は天井を見て溜息をつくと、痛みを誤魔化すために部屋を出て、暗い夜道を歩き回った。しかし、小さな川に差し掛かったところで橋を渡ろうとすると、やつが橋の欄干に腰かけているのが見えた。
「今回は殺さないとお前は言ったが、いつか私を殺しにくるのかい?」
「そうね、そのときは優しく殺してあげるわ」
 夜の小川は星に照らされキラキラと輝いていた。この痛みさえなければ、もっと気の利いた言葉でその美しさを表現できるのかもしれないと思ったが、そこに美しいものがあるだけで今は十分な気がした。
「まだ仕事は残っているけど、今夜はこれで帰るわ」

 翌日、私は歯医者へ行った。治療用の椅子に腰かけると白衣姿の女が現れて私に挨拶をした。
「じゃあ、仕事の続きを始めるわね」と女は言うと私の頬をなでた。
 そして麻酔が注射され、虫歯を削られて、歯の神経が抜かれた。
 私から切り取られた神経の糸はヒクヒク動きながら成長し、やがて人間の赤ん坊の姿になった。
 当然、その赤ん坊は私から生まれたのだから、私が育てることになった。そして、女もよく私の部屋に来ては赤ん坊の面倒をみてくれるので、とても助かっている。女はこれも仕事のうちだと言っているが、私にはやつの目的なんてもうどうでもいいことだった。いつかこの女に自分が殺されたとしても、赤ん坊が幸せに生きていければそれでいいではないか。
「でも、あなたにはあなたの人生があるのだから、すべてを赤ん坊に託してはダメよ」
 じゃあ、私と結婚してくれ。
「やっと、その言葉が聞けたわ」

【短編】 冷蔵庫の物語

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 そいつは冷蔵庫から出てくると、ハローと言った。私は冷えたビールを飲みたいだけだったので、誰かに挨拶されるなんて考えもしなかった。
「冷気が逃げるから、早くドア閉めたほうがいいわよ」とそいつは、ソファにくつろいだように腰かけながら言った。「それに、まずは冷蔵庫のドアを閉めないと落ち着いて話ができないでしょ」
 そいつが言っていることはその通りなのだが、このままドアを閉めたら、今置かれている状況を受け入れてしまうことになる気がしたので、私は一旦目を閉じて深呼吸をした。
 すると次の瞬間、バタンという音が聞こえたので目を開けると、そいつが冷蔵庫のドアを足で蹴っているのが見えた。
「目の前のことから逃げても何も解決しないし、物語はもう始まっているのよ」

 私は、自分の置かれた状況を一週間ほど静観していたのだが、そいつはいつもソファでゴロゴロしたり、お菓子を食べたりしているだけの存在でしかなく、物語が始まったようにはとても思えなかった。あるいは、何も起こらない物語もあるのかもしれないが、そもそも現実というのは物語のように何かが起こる必要はないのだ。
 しかし、一ヵ月ほど過ぎたあるとき、そいつは私のことを「兄さん」と呼び始めた。
「実はあたし、兄さんの妹なの。だから兄さんのことを兄さんと呼ぶことにしたの」
 本当の妹なら兄さんと呼ぶのは当然だろう。しかし、嘘の妹であるお前にはそんな資格はないと言って突き放すと、そいつは無言で冷蔵庫のドアを開け、再び冷蔵庫の中へ戻ってしまった。
 私は、ソファに座ってしばらくテレビを眺めたあと、何事もなかったように冷蔵庫を開けた。そこには、ビールや食材が入っているだけで、変わったものは何も見当たらなかった。

 そいつがいなくなってから、私はたまに手紙を書いて冷蔵庫の中へ置くようになった。返事が返ってくることもあれば、返ってこないこともあった。お前は嘘の妹であるが私の妹であることに変わりはないと手紙に書くと、そいつは、「はじめから兄さんの気持ちは知っていたわ」と返してきた。
 そして今、そいつは家電売場で冷蔵庫の販売を担当しているのだという……結局、冷蔵庫で話が終わるというのは月並みな展開かもしれないが、そいつはそういう物語で満足しているようだし、私も別に不満はない。それと、はじめから私の気持ちを知っていたなんて嘘だ。でも、そんなことも全部含めて、私はそいつが好きだ。

【短編】 暗闇で君に会いたい (2010/10作)

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 みんなが僕と目を合わさないのは、きっと僕が猫の死体なんかを手にぶら下げているせいだと思う。僕はこの憐れな猫をどこか適当な場所に埋めてやるつもりだったのだが、適当な場所なんて、そう見つかるものじゃない。
「君ちょっと!」
 緊張した顔の警官に、僕は突然呼び止められた。
「ここで何をしてる」
「デートの待ち合わせを」
 警官は緊張を緩めない。
「手に持っているものは何だ」
「アイスクリームにでも見えますか?」
 僕がそう言うと、警官は顔を紅潮させ僕の胸ぐらを掴んだ。
 僕は猫を持っていない方の手で上着のポケットから拳銃を取り出すと、警官のこめかみに銃口を当てた。
「じつは、その相手の女とはずっと昔に別れたきりなんです」
「ああ……」
「でもまた会いたいっていう手紙を彼女からもらって、今日はここで待ち合わせをしてたって訳なんです」
 僕は警官の腰ベルトから、猫を持った方の手で器用に拳銃を抜き取ると、両手を上げる警官にさよならを言った。
「もし彼女が来たら伝えて下さい。やり直すのは、やっぱり無理だと」
 僕は人ごみに紛れこみながら、目に付いた地下鉄の階段を降りていった。地下鉄の構内では、オレンジ色の宇宙服みたいなものを着た人やヘルメットを被った人たちが、何かを叫んだり忙しそうにしていたので、死んだ猫をぶら下げている僕のことを変な目で見たりする人は全然いなかった。
「ここは危険です! 今すぐ地上へ逃げて!」
 僕は自動改札を飛び越え止まっている電車に乗り込んだ。車内には、床に倒れた人や白い泡を吹いている人たちが大勢いた。
「ねえその猫、名前なんていうの?」
 ふいに小さな女の子が僕に近寄ってきた。
「名前は知らないけど……君、大丈夫?」
「うん、大丈夫。その猫、眠ってるの?」
「まあね」
 電車がゆっくり動き出したので、僕は女の子の手を引いて座席に腰を下ろした。
「ねえ、なんかワクワクしない?」と女の子は言いながら、僕の顔を下から見上げるように覗きこんだ。
「君といると、なんだか楽しいよ」
 僕は真っ暗な地下鉄の窓を眺めた。
「あたしがお母さんで、猫はお父さん。あなたは、あたしの子供ね」
 車両の隅で、岩のようにうずくまったエレファントマンが小さく、醜悪に頷いた。
「だからあたしがみんなを守るの。だってあたし、お母さんですもの」
 僕は泣いていたと思う。そして暗闇は無言のまま、バラバラに砕けていく僕たちをじっと見ていた。

【短編】 幽霊と映画と手帳

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 こんにちは。

 わたしはだぶん幽霊です。
 なぜそう思うのかというと、誰かに話しかけても反応がありませんし、すぐ目の前にわたしがいても全く気づかれないからです。もともと人とあまり話すほうではなかったので、最初はそれほど気になりませんでした。しかし、何をしても相手の反応がないので、その理由をあれこれ考えているうちに、自分は幽霊になったのではないかと思ったわけです。だとすると、わたしはすでに死んでいることになりますが、自由に移動できるのは今いる公園の中だけなので、自分の死を確認することもできません。ただ、服装はコートとマフラーのままなので、もし死んでしまったのなら、そのときの季節はたぶん冬だったのでしょう。

 わたしは普段、公園のブランコに腰かけたり、桜の木に登って辺りを眺めたりしているのですが、何の目的も与えられず過ごしているせいか、時間が流れているのか止まっているのか、よく分からなくなることがあります。もちろん、昼と夜が変わったり、人が公園を歩いたりするという変化はありますが、わたしには、それがまるで映画のように見えてしまって、目の前で本当の時間が流れているのかどうか分からなくなるのです。二時間の映画なら、それを観た人にとっては二時間という時間が過ぎたことになりますが、映画の中では何年も、何十年も過ぎていることだってあります。当然、それは映画なので、その中で何十年過ぎようと何の不思議もないのですが、そう思えるのは、「これは現実ではなくただの映画なのだ」という安心があるからでしょう。

 そんなことを考えながらいつものように過ごしていると、わたしは公園のベンチに手帳が置いてあるのを見つけました。きっとこれは、昨日このベンチに座っていた高校生が忘れていったものでしょう。わたしは手帳を開き、付属のペンで「こんにちは」と試しに書いてみました。すると、紙の上にちゃんと文字が書けているのです。幽霊のようなわたしの書いた文字なんて普通の人には見えないかもしれませんが、もし手帳を開いたあなたにこの文章が読めたとしたら、わたしの存在を知ってもらえるかもしれません。あるいは、ただの悪戯だと思われるのがオチかもしれませんが、もし何かを伝えることができれば、あなたとわたしは、その瞬間だけでも同じ時間を過ごしたことになるのです。それはきっと、一方的に流れるだけの、映画の中の時間とは違うはずですから。

プロフィール

Author:euReka(エウレカ)
euRekaと申します。小説や詩を書いています。

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